銃をぶっ放し、悪党の一団が馬を疾走させ画面正面に突っ込んでくる。土ぼこりが煙となって舞いあがる。疾駆する馬体(波打ち揺れる肉のかたまり!)の重量とそのスピード、痛快西部劇の予感にわくわくしてくるオープニングです。
このわくわく感が長続きせず、いつの間にか消えてしまう『ブラックストーンの決闘』の魅力についてのおしゃべり(その①、わたしはなぜ、この西部劇をくり返し視聴するのか)です。原題はRETURN OF THE BAD MENということで伝説のBAD MENが大挙して登場します。ヤンガー兄弟、ダルトン兄弟、ビル•ドゥーリンそれにビリーザ・キッドにサンダンス•キッドと。
とはいえ、話の前面にでてくるのはサンダンス•キッドのみ。あとはその他大勢のあつかい。せりふも、ひとことかふたこと。これでは、伝説の悪党どものカッコよさを、わくわくしながら待っているわたしの気持もなえていくばかりだ。そもそも、出演させておいて何の見せ場も用意しないなんて、伝説の悪党どもに失礼だろう。
かなり鬼畜なサンダンス・キッド
それからサンダンス・キッドといえば『明日に向って撃て!』だ。無口でちよっとニヒルなさまがきまっている、かっこいいアウトローでしょう。ところがこっちのサンダンス•キッドはとんでもない野郎である。情報を聞き出せないとわかるや、おとなしい一般人を撃ち殺す。自分の取り分を多くしたいがために、用済みとみた仲間は撃ち殺す、しかも背後から。
そんなかれに嫌気がさしたビリー•ザ・キッドは早々に一団から離れてしまう。サンダンス•キッド、非道のきわみは、元女盗賊シャイアンの絞殺だ。もちろん極悪のサンダンス•キッドがあってもいい。ただ一見やさ男風のこいつ、とてもそんな鬼畜にみえない(そこが怖い)。これがリー・マービンなら、どんな鬼畜な所業も納得だ。
野獣顔負けの血に飢えた風貌で、自分のやったサディスティックな結果に大満足の下卑た笑いを誇らしげにみせてくれる。そして、みてるこっちも「やるな、この変態野郎」と。これもまた娯楽西部劇を楽しむある種の痛快さというものだ。しかしかれほどのアクの強さも、生々しいいやらしさもない平凡な風貌の男が、女性を死に至るまで絞めあげるとは
(たとえ彼女が勝手に足を洗って保安官側に寝返ったからとはいえ)。しかも絞殺のあと、あわておどおど気味ではないか。鬼畜な所業のあと、スカッとした爽快感をみせてくれないようでは、娯楽西部劇の悪党としては失格です。このサンダンス・キッドのやることはもう行き当たりばったりの激情、一体何を考えているのか。
もしかして精神が危ない系の人なのか。確かにかれをよくみてみると、ちよっとした微風にでもそのおもてをみだす湖水のような、柔らかな顔面の肌ざわりが感じとれる。またその目には、ねちっこさや短気、虚勢や卑屈といった、精神の切れやすさを引き起こす、めんどくさい情念がちらついているような、いないような••••
ロバート・ライアン、その魅力
サンダンス・キッドを演じているのはロバート・ライアン。じつはかれの、あいまい微妙な表情、ひょろっとしたやさ男風のところ、軽々とした身のこなし(✳)、これがわたしは大好きなのです。かれがみせる表情、風貌、たたずまいには明確な輪郭というものがない。これは娯楽西部劇の悪党としては失格だ。悪党どもをたばねるビル•ドゥーリンがいう
「前に出ようとしなきゃ、あいつもいい奴さ」。そう、この男、憎めないというキャラまでもっているのだ。ときおりみせる困惑気味な表情(これが絶品だ)は、甘えん坊の照れ隠しそのもの。こんな、スカッとしないサンダンス・キッドが話の前面にしゃしゃりでるとあっては娯楽西部劇の一本気的痛快さは、味わおうにも味わえたものではないのです。
オープニングのわくわく感なんか、いつのまにか、どっかにふっ飛んでいってしまいます。そして、そのうちに気がつくのですーー「このサンダンス、現代風にいうとサイコかもしれんな」とか「衝動的で、いろんな要素がぐちゃぐちゃにまじったキャラというのは、現代の人間なら誰でも、われ知らずにもっている変態性なのかもしれんぞ」などど空想をしまくっている自分に。
これはもう、ロバート・ライアンがこの映画に持ち込んだ、娯楽西部劇のおもしろさとは別の味を、楽しんでいるようなものである。スッキリとしない、もやもやとした、なんともいえない何かを感じさせてしまうロバート・ライアンの、あいまい微妙な表情、目つき。そこに、話の筋そっちのけで、わたしの好奇心をかきたてるものがあるのでしょう。
そこでわたしは(空想好きのわたしのこころは急務や何かの痛みの最中であれ、DVD視聴中であれ、いとも簡単に目の前のことはそっちのけで、どこかに浮遊してしまうのだ)オープニングのわくわく感が消えたあとも、この、今ひとつスカッとしない西部劇を、自分勝手にでっち上げたサンダンス・キッドを追いかけることで、何度もくり返し楽しんでいるのかもしれません。
・
・
・
(✳)身を低くして小走りで近寄り、ふわっと手すりを飛び越えるシーン(2回ある)が、わたしはとりわけ、かっこいいなと思っているのです。ながいからだをたたみ折り、すっと、重さを感じさせず飛び越える。着地も決まったという感じではなく、すっと(スターがやるとスタっ!と、やたらカッコいい着地になるのだが)。1948年、レイ・エンライト監督。