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「友だちをひとりもっていれば、おまえはリッチだーーおやじがよく言っていたものさ。おれには、おまえという友だちがいる。だからおれはリッチだ」。ちょっとまえに見たふるい西部劇(DVD)のなかで、主人公が相棒に言う。かっこいい台詞だね。西部劇における友情についておしゃべりしてみたくなった。

 

そう思ったのですが、一週間たっても話がまとまりません。これはまいった。そこで本日は「DVD視聴ひかえ」(あとで思い出せるように、見た直後にさっと書き置いたメモ)から、いくつかをそのまま抜書きしてお茶を濁すことにしよう。✴以下は現時点でのコメント。

 

⚫『四人姉妹』(1953)おおロンダ•フレミング主演!これは見ないといけないだろう••••ああ、せっかくのロンダお姉さまが••••ルイス•R•フォスター監督。(✳めったにネット検索をしないわたしが思わず調べてしまった気高き美貌のロンダ嬢。その美貌もこの作品では台なしさ。内容もすでに思い出せないよ)

 

⚫『ウィンチェスター銃 ' 73』(1950)これぞ娯楽西部劇だ。高級感ある西部劇ではない。それがいい。誰でも気軽に買える幕の内弁当みたいなものだ。でもひとつひとつのおかずはしっかりとおいしい。西部劇に必要な要素はすべてある。まあ、ないのは酒場の色っぽい踊り子ぐらいか。

 

いやらしさ満点の悪党、ウェコ•ジョニー•ディーンが素晴らしい。こすっからい卑劣漢。ヒロインのローラのまえで、その夫をいじめ、なぶり殺す。かと思うと、かなわない相手とみるや、卑屈な笑いを浮かべ、あっさりと譲歩する。そのうち隙(すき)をみてやっつけるさ、と強がって。

 

酒場で主人公に痛めつけられ、外に投げ出されたウェコ。振り返えりざまに銃を抜こうとするも、いちはやく主人公の拳銃が火を吹いた(ローラの忠告、ウェコの左手の動きに注意して、が功を奏したのだ)。身をよじらせながら、中途半端に抜いた拳銃でむなしく地面に向けて2発撃ち込み、そのまま崩れ落ちるウェコ。この映画のなかで最高にしびれる場面だ。

 

クライマックスの岩場における男ふたりの、上からと下からとのライフルでの撃ち合い(両者ともライフルの名手で、なかなかスリリングである)よりも、このウェコ最期の場面のほうがたまらないよ、わたしは。ウェコの、語尾を上ずらせながらの口調は一度聞くと忘れられない。それに人を小馬鹿にしたような、少し下顎(あご)がでた顔つき。一度みたら忘れられない。

 

演じているのはダン•デュリエ。現代もので二本ほど見た。西部劇ではほかに見たことがない。主人公に扮するジェームズ•スチュワート、かれはどの西部劇をみても、何か思いつめたような、怒ったような顔付きだな。かれの相棒ハイ•スペードがかっこいい。別段これといった活躍はしない。口数も少ない。主人公のわきにいて、いつも静かに人のよさそうな笑みを浮かべているだけ。

 

だが、その落ち着いた物腰が、やるときゃやるぜ、といった頼りがい抜群の雰囲気をかもし出しているのだ。主人公がかれに言う「おやじがよく言ったものさ。友人がひとりいればリッチだ、って。おれにはおまえがいる。だからおれはリッチだ」。いいなあ、リッチとはそういうことなのね。ハイ•スペードを演じているのはミラード・ミッチェル。もの柔らかな渋み、というやつだ。

 

ちょっと蓮っ葉(はすっぱ)な感じはあるが、じつは情にあつく、しっかりもののヒロイン、ローラはシェリー•ウィンタース。も、いい感じ。貴重なウィンチェスター銃73がつぎつぎと持ち主をかえながら、最後はその銃をもつにふさわしい人間(主人公リン)に落ち着くように、流されるまま男をわたり歩くローラも運命の男、主人公リンとむすばれハッピーエンド。よかった。

 

この映画、西部の男にとってとても大事な銃と女性をめぐる(そして相棒についての)物語なのです。何度でも見たくなる『ウィンチェスター銃 '73』、この西部劇一発でアンソニー•マン(監督)の名を覚えてしまいました。

 

⚫『Tメン』(1947)アンソニー•マンだ!現代もの。西部劇よりもドライで切り詰められた感覚。全編を通して緊張の糸がゆるまない。構図やカメラの動きにひと手間かけているはずなのだが、そんなことにまったく気づいている暇がない。ストーリーそのものに没頭させられてしまった。デトロイトで完璧に悪党に変身したあと、主人公の捜査官はロスにある偽札づくりのアジトに潜入することに。

 

人情味の要素をまったく欠いた非情な、スリルとサスペンスの連続のなかにあって、唯一人間らしさを見せるのが「策士」と呼ばれる男。哀願、駆け引き、自尊心といった人間臭ぷんぷんで、主人公にいやらしくすり寄ってくる(主人公に弱みを握られてしまったのだ)。しまいには裏切り者として仲間の殺し屋によって抹殺されてしまう。この、サウナ内における殺害シーンの緊迫感がすごい。