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ふるい西部劇におけるリー•マーヴィンの悪党ぶりは、とくにランドルフ•スコットと組んだときのそれは最高だ。いたるところで主役を張っているL•スコットはいつも人のよい笑みをうかべ突っ立っている。どの作品であれL•スコットはL•スコットなのだ。だからかれを際立たせるのは、かれとからむ奴である。そんな奴にぴったりなのがリー•マーヴィンなのです。

 

無法者を率いるL•スコットとかれの手下のひとりであるリー•マーヴィン。だがリー•マーヴィンは従順な子分ではない。自分の腕を過信していて、他人にあれこれ指示されるのが大嫌い。事あるごとにボスに突っかかり反抗的だ。だがボスに詰められると不満顔して引きさがる。このあたりの虚勢、へたれ具合がいいのです。相手をなめ回す爬虫類の眼差し。よだれを垂らしっぱなしの獣、のような口もと。

 

トリガーハッピーな野郎で、少しでも気に食わない相手は即射殺。女性を見れば、その目に情欲の炎をともして、ねちねちとからみつき暴力もじさないいやらしさ。まあこれぐらいの下劣漢でないと、正義漢づらして澄ましこんでいるL•スコットを怒らせることはできないのです。ある作品では、とうとう殴り合いに。が素直に負けを認められないのがリー•マーヴィン。

 

屈辱に顔をゆがめL•スコットの背にむけて銃を抜く(すぐに仲間のひとりによって射殺されるのだが)、そのときの獣じみた、いやらしさ満点の表情は天下一品でしょう。で、話はいよいよ1956年の『七人の無頼漢』です。元保安官のランドルフ•スコットは、(行きがかり上)自分の妻を殺害した7人の無頼漢どもに復讐しようと、かれらを追跡の途上である(✳)。

 

そこへ登場するのが、われらがリー•マーヴィンであります。このリー•マーヴィンはもはや、すぐにかっとなりイキガリまくるかつてのチンピラ悪党ではありません。思慮と落ち着きをもった凄腕のアウトロウーへと変貌をとげているのです。むやみにL•スコットに楯(たて)突くような、まねはいたしません。それどころか諭(さと)すがごとき口調で、しずかに圧をかけてくるのです。

 

「おれは無頼漢どもが強奪した2万ドルがほしいだけです。ただ保安官、あなたが奴らを始末したあと、どうしてもその2万ドルを元の持ち主に返却するというのなら、仕方がない、あなたと決着をつけるしかありません」と。この台詞には自分の腕に確たる自信をもつにいたった男の余裕というものが感じられます。映画の途中に、誰に見せるともなく、かれがみごとなエアー抜き射ちを見せる場面がある。

 

わが腕の確かさに満足して悦に入るその表情のなんと晴れやかなこと。こっちまでスカッとした気分になり、思わず「いよっ!決まったね、大将」と声をかけたくなります。さて、このふたり、過去に何か因縁めいたものがあるらしい。リー•マーヴィンは元保安官に二度ほど逮捕されたことが••••らしい、さらにふたりは女性をめぐって深刻なトラブルを••••らしい。

 

L•スコットのまえで、同席する若夫婦(妻は元保安官に好意を抱いている)にむかって自分の過去を謎めいた口調で話しだすリー•マーヴィン。どう対応すべきかわからず徐々に不安にかられてゆく人妻。女性の困惑した表情に快感を覚えるにしても(相変わらずのサディストなのだ)、かつてのように粗野な暴力的なやり方ではなく、いまや、心理的に追い詰め、その精神に揺さぶりをかけるというやり方なのです。

 

なかなか味な手法を身につけた粋な悪党になっているではありませんか。ひろがる不穏な空気。不快感に耐えられなくなったL•スコットは怒りを爆発させる。だがリー•マーヴィンは殴り倒されても、以前のように逆上などいたしません。その場は、おとなしく身を引き、こっそりと無頼漢どもに接触。それから元保安官の動きを吹き込み、先手を打つようにかれらを焚きつけるのです。

 

双方が銃撃戦をはじめるや、不意をつき無頼漢どもをつぎつきと撃ち殺してゆく。仕上げに、自分の手下も平然と始末してしまった。これで2万ドルをひとり占めだ。いや最後の大一番がひかえています。そうランドルフ•スコットです。このガチガチの正義漢がだまって許してくれるはずがありません。リー•マーヴィンが、無頼漢どもから横取りした強奪金2万ドルを持ち逃げするのを。

 

直射日光が照りつける石ころだらけの、すべてが乾ききっただだっ広い大地。そのど真ん中にリー•マーヴィンが臨戦態勢をとって構えている。足元には2万ドルの金庫箱。カメラが切りかわると、ライフルを杖がわりのL•スコットが脚をひきづりながら画面にはいってくる。無頼漢どもとの銃撃戦を無傷で生き延びることは難しかったのだ。

 

L•スコットの後方には異様なかたちをした巨石の群れ。それらがびっしりと、くっつき連なり、画面いっぱいに断崖をなして切り立っている。カメラがふたたびリー•マーヴィンをとらえ、かれは完全な自信と余裕のうちに、しづかに宣戦布告をします「保安官、準備をしてください。決着のときです」。一秒、二秒、••••かれの両の手が、腰に吊るした二丁の拳銃にすっと動いた、その瞬間、

 

銃声一発。苦痛にゆがむリー•マーヴィンの顔。なんとかこらえようとするが、こらえきれず、身をよじり大地に崩れ落ちるリー•マーヴィン。遠のく意識にもかかわらず、金庫箱の錠前をつかみ取ろうとする執念の手、その手の大写し(一瞬しっかりとつかむも、すぐに力が抜け大地にずり落ちてしまった)。

 

ライフルに身を預け、拳銃を片手に立っている疲労困憊の元保安官。

 

(✳)映画がはじまるや、その冒頭で元保安官は7人の無頼漢のうちのふたりを早々と仕留めてしまう(リー•マーヴィンの登場はそれからかなりの後である)。