(近ごろの日記)先日、路上古本市にでかけ、西部劇のDVDと文庫本三冊を買う。連休中の、お手軽な暇つぶしができた。13③文庫本二冊目『好色一代男』/校訂入りで、現代語訳ではなく原本。昔ハマっていたことがあり、また読んでみたくなった。ど素人がいうのもなんだが西鶴は原文に限る。
あの、バキバキと何かをへし折ってゆくような、短く鋭い原文のリズム感はたまらない。細部が少々わからなくても、この文章の勢いこそが『一代男』を読む楽しみなのだ。どの話も好きだ。第二巻の三話に「女はおもはくの外」というのがある。世之介(16歳)がある女房にさかんに濡れ文をおくる。
ついに「明日の夜、こっそりおいでなさい」と色よい返事。浮き浮きと忍びゆくに、戸があいたかとおもうと、その女房、割木で思いっきり世之介の眉間をたたき割り、ぴしゃりと戸を閉める。はっはっ!これは大笑いです。かように女性とは、こっちの思惑(おもわく)の外である。惚れてぼーっとなっていると大変なことになるのだ。
まったく女ってやつは、である(女性にいわせりゃ、調子に乗りやがってこの野郎、ってことだ)。そんな経験がない幸せな奴は、この上なくのっぺらな野郎さ。だがそんなことを何度も経験していると、女性どころか、人生は思惑の外(人生とは自分の考えがおよばないものだ)などと深刻な事態になる。わたしの経験を話すのはひかえ、
ここは思いついた映画のなかの話を、ひとつふたつ。ベッドをでたシャロン•ストーンがてきぱきと身なりを整えている。さっそうたるものだ。と、しゃれた格好のやさ男が近づき「よろこんでいただき、とても光栄です。次回も是非ご指名のほどを」と名刺を差し出す。シャロン姉さん名刺に目もくれず破り捨て「あたしは同じ男とは二度と寝ないことにしているの!」。ハッハッハッ!
やさ男、どうすればいい?冒頭のシーンだが題名は何だったのか。テロリストを相手にする戦闘艦の指揮官をシャロン•ストーンが演じる(?)アクションものだっけ。つぎは、情がわいてしまい、気を許したためにとんだことになった青年の話。これも題名が出てこない。東京新宿あたり。ある青年が少女をつぎつぎと誘い込んでは監禁、暴行を加え、その最中に毒をもり殺害する(✳)。
その時に、激痛けいれんから死に至るまでの少女を克明にカメラに記録する。拡大した写真を部屋中に張りめぐらせ、そのなかで自分の孤独とむきあっているような青年なのだ。あるとき、何時ものように、ひとりの少女を誘い込み暴行を加えるが、毒殺をためらう。そのうちに情がめばえてしまったのか、次第に暴行は愛の行為と区別がつかなくなってきた。何度も毒殺を試みようとするも思いきれない。
そしてとうとう、その時が•••愛の行為のさなか少女によって青年のほうが毒殺されてしまう。それから数日後••••新宿の有名なギャラリーで写真展がひらかれ大盛況である。集まったマスコミのインタビューにさっそうと応えているのは、青年を毒殺した少女だ。展示されているのは激痛、けいれん、断末魔の表情をした無数の少女たち。
宙を飛翔し、その無敵の技で山を崩し落とし、大地をひっくり返らせ、湖水を天高くふきあげる魔性の女、かつて男にしていまや恐るべき美貌の妖女、東方不敗ーー池にたわむれる彼女に魅せられ、心奪われてしまった青年剣士。いずれ相戦い合うことになるとは夢にも知らず、かれははげしく求愛する。一度、ただの一度でいい、ふたりだけでお会いしたい。
月も星もないある闇夜、ふたりは廃墟と化した古い寺院の奥で一夜を共にした••••時がながれ運命は変転し、ふたりは雌雄を決する時を迎えてしまう。天空を切り裂き、大地に亀裂を走らせ、天と地を逆転させて決死の闘いを繰り広げるふたり。ついに力尽きかけたふたりは、もみあい、からみあい、無限の深みをもつ断崖絶壁と断崖絶壁の間をすごい速さで落下してゆく。
落下しながら、なおも剣をまじえつつ、青年剣士がはげしく問いつめる「あの夜、会いに来てくれたのは本当に、あなただったのか?答えてくれ、そうだと」(青年はずっと東方不敗ではなく、彼女の身代わりの者ではなかったのかという疑惑に悩まされていたのだ)。ふたりして無限の底に落ち行く断崖絶壁に、東方不敗の非情の声がひびきわたるーー
「誇り高き勇者よ、そなたは、そなたを責めつづける大いなる疑惑を抱いたまま死んでゆくのだ!」(✳✳)••••終劇。(おいっ!何てこっだ。まったく女ってやつは。そう叫びそうになったのは、わたしです)この場面ほどに、わたしの胃を絞め上げた映画の場面は(大げさにいえば)いまに至るまでひとつもありません。
(✳)毒のもり方がじつに巧妙で、みながら感心したのですが、いま正確に思い出せません。
(✳✳)東方不敗をブリジット•リンが、青年剣士をリー•リンチェイ(のちのジェット•リー)が演じて抜群のおもしろさ!
(いつもの通り、せりふ等の引用は記憶のみにたよっているため、はなはだ不正確であります)